ストップ・ザ・マシアを目指すラ・ファブリカ
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ユーロ連覇を狙うスペインのビセンテ・デル・ボスケ監督が、27日に23名のメンバーを発表した。けがのカルラス・プジョル、ダビド・ビジャが外れたとはいえ、ルイス・アラゴネス率いる前回大会の優勝メンバーが12名入るなど、ベースとなる選手層の厚みと国内で「黄金世代」と呼ばれるタレント軍団の印象を改めて強調した。
注目の集まったセンターフォワードの3枠にはフェルナンド・ジョレンテ、アルバロ・ネグレド、フェルナンド・トーレスが入り、シーズン終盤に調子を上げていたロベルト・ソルダードとアドリアンは残念ながら招集外となった。
スペインらしく翌日の新聞には、クラブ別の選手数とランキングが掲載されていたが、バルセロナが最多の7名、続いてレアル・マドリーの5名で、アスレティック・ビルバオ、チェルシー、セビージャが2名ずつで3位タイ。一方、所属クラブではなく、出身クラブ別にメンバーを見ると、バルセロナのカンテラたる『ラ・マシア』からはペペ・レイナ、ジョルディ・アルバを含めて最多9名が選出されている。
ここでも続くのがレアル・マドリーの『ラ・ファブリカ』。生え抜きのイケル・カシージャス、アルバロ・アルベロアのみならず、トップ定着とならず移籍したことで開花したフアンフラン、フアン・マタ、ネグレドを含めて5名がレアル・マドリーの下部組織出身で、セルビア、韓国との親善試合のメンバーにはソルダード、ハビ・ガルシアがいた。
バルサのラ・マシアが、名実ともにスペインのみならず世界最高の育成機関であることに反論の余地はないが、こうした数字を見ればラ・ファブリカも過小評価できない。事実、スペイン代表のメンバーが発表されたのと同じ27日、レアル・マドリーのBチームであるレアル・マドリー・カスティージャが2部B(3部)のプレーオフを勝ち抜き、来季2部A(2部)への昇格を決めている。ビジャレアルが2部へ降格したことで、Bチームは来季3部へ自動降格となるため、2部所属のBチームを持つのはバルセロナとレアル・マドリーの2クラブとなる。
つまり、育成面でも二強の独占化が進んでいるのだが、豊富な資金を投資するのみならず、きっちり回収する術も持っている。例えば、今回2部Aへの昇格を決めたレアル・マドリー・カスティージャの選手たちには総額100万ユーロ(約1億円)の昇格ボーナスが与えられることになるが、これは来季2部A参戦で得られる放映権料250万ユーロ(約25億円)を充てにした大盤振る舞い。
放映権料以外にも、当然2部Aの試合となれば観客数の増加を見込んだ予算編成が可能となり、これまでユース年代を卒業する19、20歳の若手選手をヘタフェなどに期限付き移籍させていたのがBチームに留めておくことでラ・ファブリカとしてのタレントの流出を避けることがでるなどメリットは多い。
ジョゼ・モウリーニョ率いるトップチームがストップ・ザ・バルサを成し遂げたように、育成面においてもラ・ファブリカがストップ・ザ・マシアに向け成長を見せており、今後はカンテラにおける二強の競争も面白くなりそうだ。
カシージャスらが育ったレアルの『ラ・ファブリカ』がバルサの『ラ・マシア』に猛追している
【プロフィール】
小澤一郎(おざわ いちろう)
サッカージャーナリスト(Periodista)。スペイン在住歴5年。主にスポナビ、ダイジェスト、クリニック、サッカー批評などで執筆中。著書に『スペインサッカーの神髄』(サッカー小僧新書)、『サッカー選手の正しい売り方』(カンゼン)。メルマガ「小澤一郎の『メルマガでしか書けないサッカーの話』」も好評配信中。
2012.06.04 14:14
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