写真で伝える欧州最前線


ツイート
■宮市亮がついに代表デビュー、活躍を支える「判断力」

62分、19歳の少年が日本代表のピッチに立った。誰もがこの少年の代表デビューを待っていただろう。香川真司と交代した彼は、デビュー戦にもかかわらず、ピッチに入って長友佑都に「思い切ってやれ」とでも言うように肩を掴まれると、今度は自らエースの本田圭佑に話しかけ、会話を楽しんだ。

「ピッチに入った時に本田(圭佑)さんに『ガンガン行けよ』って言ってもらえたし、そういう言葉が自分をラクにしてくれた」

結果で自らの価値を証明し、プレミアで存在感を示し始めた少年にとって、試合で仲間とコミュニケーションを取ることは、ごく当然のことなのだ。それが誰であろうと必要ならば実行する、それがプレミアで頭角を表してきた一端だろう。

本田の言葉で解き放たれた宮市は、得点にこそ絡まなかったものの、自慢の高速ドリブルを披露し、可能性を感じさせた。アルベルト・ザッケローニ監督も「若い3選手がデビューしたが良い出来だった。若い選手が台頭してくれるのはうれしいこと」とコメント。翌日のアジア最終予選に臨む23名の名前の中にも、宮市亮の文字がはっきりと刻まれていた。

 宮市は日本の高校を卒業と同時に、プレミアリーグの強豪アーセナルに移籍。その後はオランダのフィエイノールトにレンタル移籍し、後半戦のみの出場ながら12試合で3ゴールをマークし、瞬く間にファンの心をつかんだ。今シーズン途中にはボルトンにレンタル移籍。プレミアデビューを果たし、FAカップではイングランドでの初ゴールを記録するなど、勢いはとどまるところを知らない。

ボルトンでのプレーを数試合撮影した私は、彼のプレーを見て、単なるサイドアタッカーではないと感じた。それは、3月初めのQPR戦でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた際に見せたプレーに凝縮されている。ゴール前中央でトラップした宮市は、自ら突破すると見せかけて、上がってきた味方に絶妙なパスを送り、決勝点をお膳立てした。プレミアのサイドアタッカーはスピードばかりに目が行きがちだが、それだけでは活躍することは難しい。周囲も見えて、そのときどんなプレーがベストなのか選択することができる「判断力」こそ、プレミアリーグで活躍できるかどうかの分かれ道なのだ。

この試合のスカイスポーツのゲスト、ガリー・ネヴィル氏(元マンチェスター・U、元イングランド代表DF)は、宮市を「小さな国から来た特別な才能を持った選手」と評している。

類稀なるスピードが武器であることは、彼のプレーを見ればすぐに気がつくはずだ。しかし、それでもアゼルバイジャン戦で、ゴールラインを割るかと私も思ったボールに追いつきクロスを上げた場面は鳥肌が立った。今度は仲間が彼の才能を信じる番だ。

試合後、スタジアムを一周する選手たちに声援を送る子どもたちが「みやいち! みやいち!」と叫んでいるのが、一段と大きく聞こえた。彼らこそ、宮市の才能を信じているのかもしれない。将来の自分と重ね合わせて。

Photo: Kazuhito Yamada/Kaz Photography
宮市
ピッチに入り、長友に歓迎を受ける宮市


【プロフィール】
山田一仁(やまだ・かずひと)
1957年岐阜生まれ。千葉大学工学部画像工学科を卒業後、1981年から(株)文藝春秋写真部にスタッフカメラマンとして在籍。1989年春に退社し、イギリスに語学留学する。1990年からフリーカメラマンとして活動。2007年に(有)Kaz Photographyを立ち上げる。日本人フリーランスカメラマンとして唯一イングランド・プレミアリーグの撮影ライセンスを所持しており、現在は、年間の半分近くをロンドンを拠点として、主にイングランド・プレミアリーグ、欧州チャンピオンズリーグ、外国リーグで活躍する日本人選手を取材している。

2012.05.31 15:51


宮市 亮 プロフィール

《関連ニュース》
宮市が途中出場でデビュー「ピッチに立てて幸せ」…チームは今季初勝利 (9/14)
宮市亮、オランダのトゥウェンテへ1年間のレンタル移籍決定 (9/2)
ヴェンゲル、宮市の開幕戦欠場を明言も負傷からの復帰は「もうすぐ」(8/15)
宮市亮が来シーズンの飛躍を誓う。「ケガをせず、1年間を通して活躍したい」(7/2)

プレミアの試合結果一覧

プレミアのニュース一覧

ニュース一覧
コメントニュース一覧
SOCCER KING + TOP