戸塚啓の日本代表コラム 〜Road to Brazil〜


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□実り多きキリン杯、メダルの可能性が広がるなでしこ

 五輪開幕まで4か月弱の段階としては、申し分のない仕上がりだろう。キリンチャレンジカップで優勝したなでしこジャパンである。

 交代選手が6人まで認められる今大会は、実際のゲームと試合の構図が異なる。交代枠をフルに使えば、疲労が蓄積する終盤にフレッシュな選手が多くなる。勝負どころでの体力はもちろん、コンタクトプレーへの耐性や精神的な粘り強さなどは、真剣勝負とややかけ離れたものになってしまうのだ。

 そうしたことを差し引いても、今回の2試合は実り多いものだったと言うことができる。

4月1日のアメリカ戦で1対1と引き分けた試合後、ダブルボランチの一角を担った阪口は、「これまではできることを見つけるほうが難しかったけど、今はこれができるだろうという感じでできている」と話した。彼女の手応えはチーム全体に共通しており、選手たちは勝ちきれなかった悔しさとともに、手応えを口にしていた。

「アメリカと初めて対戦したときは、ワンバックが衝撃的でした」と明かしたセンターバックの熊谷は、「試合を重ねるごとに戦えるなって部分も見えてきている」と言葉に力を込めた。昨夏のワールドカップでゴールを喫したワンバックに、今回は1本のシュートも許していない。守備陣がつかんだ自信は大きかった。

 攻撃面の変化は、佐々木監督のコメントが分かりやすい。キャンプで取り組んだ成果を、ピッチ上で読み取ることができた。

「ボールをしっかり動かしながら、簡単に下げず、背を向けず、前へという意識があった。できた時間帯とできなかった時間はもちろんあるが、攻撃の形としてはいままでよりステップアップしている。シュートまで持っていけるシーンが多くなっている」

 4日後のブラジル戦では、後半の戦いぶりに価値を見出すことができる。

 アメリカがブラジルを3対0で下していたため、日本が単独優勝するには4点以上を奪い、なおかつ3点差をつける必要があった。

 それだけに、前半は消化不良だった。先制点はオウンゴールで、失点は明らかなミス絡みである。内容的にも優勢とは言い切れず、アメリカ戦で見せたタテへの勢いは影を潜めていた。肌寒さが身に沁みる時間が流れた。

 ところが、ハーフタイムを挟んでピッチへ戻ってきた日本は、前半とまったく違う姿を見せていく。後半開始直後に右サイドバック近賀の攻撃参加から決定機を作り出すと、試合の流れを一気に手繰り寄せる。前へ向かう意識がボールへ宿り、攻撃に迫力が生まれた。

 58分、宮間の右CKから永里がドンピシャのヘッドを突き刺し、3分後には見事なパスワークから宮間が加点する。わずか3分でブラジルを突き放すと、終了間際には途中出場の菅澤が4点目を叩き込んだ。優勝への条件をクリアしたのである。

「ブラジルはマルタ選手がいなかったですし、(コンディションが)フィットしてる状態とは言い切れないなかで、4点取れた、勝ちきれたというのは、前向きにとらえています」

 試合後のミックスゾーンに、宮間の良く通る声が響く。「それでも、まだまだです。質を上げなきゃいけないところは、まだまだあります」と続けたキャプテンも、後半の戦いぶりには納得の表情を浮かべた。

「得点差をつけて勝たなきゃいけない試合は難しくて、前半が1対1でも慌てずに、勢いを持って後半に入れたのが結果につながったのかなと思う。五輪で自分たちがつまづいたときのシミュレーションにはなったと思います」

 佐々木監督は「自信」の二文字を口にした。

「攻守にアクションするサッカーで、強豪と戦って結果を出せた。アベレージが高くなってきて、強豪とやっても勝てる要素が出てきた。それはやはり、自信が大きいと思いますね」

 今回の2試合では、五輪を想定して様々な組み合わせがテストされている。実験的な要素を含んだ起用もあったが、「選手たちは慣れないポジションでも臆することがない」と佐々木監督が語るように、チームは機能性を保つことができていた。「このキャンプで一番伸びた選手」と指揮官が評価した菅澤を筆頭に、個々がレベルアップを印象づけた。大黒柱の澤とCB岩清水の不在も、手痛いものにはなっていない。

 2月のアルガルベカップから続いた強化は、今大会でひとまず終了とする。ここから先は時間との戦いとなるが、18人へのサバイバルはさらに熾烈となった。それがまた、メダル獲得の可能性を膨らませている。

【プロフィール】
戸塚啓(とつか・けい)
1968年生まれ。サッカー専門誌を経て、フランス・ワールドカップ後の98年秋からフリーに。ワールドカップは4大会連続で取材。日本代表の国際Aマッ チは91年から取材を続けている。2002年より大宮アルディージャ公式ライターとしても活動。最新著書に『不動の絆』〜ベガルタ仙台と手倉森監督の思い(角川書店)。『戸塚啓のトツカ系サッカー』ライブドアより月500円で配信中!

2012.04.09 14:17


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