戸塚啓の日本代表コラム 〜Road to Brazil〜


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■「悪くない」W杯最終予選組み合わせ、カギは6月の3連戦

 先月末のウズベキスタン戦に敗れた直後、FIFAランキングの後退を嘆く声が多く聞かれた。第1シードになれば、オーストラリア、韓国との対戦が避けられると。

 ランキングが下がることに、僕自身はさほど抵抗感はなかった。オーストラリアと韓国が、強力なライバルなのは否定しない。ただ、イランだって相当にタフな相手である。収容人数が12万とも14万とも言われるテヘランのアザディスタジアムへ行けば、イランとのアウェイゲームがどれほど大変なのかは簡単に想像できる。

 ソウルなら時差がなく、移動距離も短い。ソウル郊外のワールドカップ競技場の収容人数も、アザディスタジアムの半分ほどだ。ザック率いるチームで、アウェイゲームも経験済みである。テヘランよりも明らかに戦いやすい環境だ。同じグループになったとしても、悪いことばかりではない。

 タジキスタンのようなアウトサイダー不在の最終予選は、どのような組み合わせになっても困難が待ち受ける、と僕は考えていた。どうなっても楽じゃないんだから、と。

 そこで、組み合わせである。

 オーストラリアと同じグループになったが、イランはいない。厄介なウズベキスタンも、韓国も別グループとなった。第2シードに転落した影響は見当たらない。「悪くない」というのが、僕自身の率直な印象だ。単純な実力の比較なら、2位以内は確実につかめる。実力差がそのままスコアに反映されないこともあるのが、ワールドカップ予選だが……。

 カギを握るのは、6月の3連戦である。6月3日から10日間で、オマーン、ヨルダンとホームで、オーストラリアとアウェイで戦う。

 日本にとっての好材料は、欧州組のスケジュールに余裕があることだ。各国リーグは終了し、ほとんどの選手は早い段階で帰国できる。実戦から遠ざかることによる試合感覚の欠如よりも、ホームにふさわしいコンディションで臨めることのほうが大きい。

 今後詰めなければならない課題は、海外組の練習環境をどうするのかだ。J1は5月26日まで行なわれるため、国内組を含めたチーム全体の合宿はそれ以降になる。だからといって、海外組をケアしないでいいはずはない。彼らだけで合宿を先行させるなどして、準備を整えていくべきだ。今回の3連戦には、それぐらい重要である。

 対戦相手の順番は理想的だ。

 ヨルダンにはアジアカップで苦しめられたイメージがある。イラクはジーコが率いるだけでどこか不気味だ。その意味で、オマーンは初戦に最適である。

 3次予選のオマーンは、6試合で3得点しかあげていない。得点したのは2試合のみで、4試合は無得点だった。ホームのオーストラリア戦でつかんだ勝利が道を開いたが、3位に沈んだサウジアラビアの"アシスト"も見逃せない。

 チームの中心として名前が上がるのは、イングランドのウィガンでプレーするアリ・アルハブシだ。ドイツ・ワールドカップ1次予選で、中村俊輔のPKを阻止したGKである。彼を中心とした守りのスタイルは、フランス人のル・グェン監督率いる現在も変わらない。

 ひとまず現時点で、オマーンはグループ内でもっとも力の落ちる相手と考えられる。簡単に勝てる相手ではないとしても、ホームで不覚を取る可能性は限りなく低い。いきなりの黒星スタートとなるリスクがほぼないだけでも、「初戦に最適」と言うことはできるはずだ。ここで勝ち点3をつかめば、精神的にも余裕を持ってヨルダン戦に臨める。海外組の試合感覚も、オマーン戦を経て磨かれているだろう。

 ヨルダンと言えば昨年のアジアカップが思い出され、辛うじて敗戦を免れた難しい相手という評価が一般的である。ただ、アジアカップと今回では、試合の背景がはっきりと異なる。アジアカップはほぼ3か月ぶりの国際Aマッチで、海外組の多くはウインターブレイク中だった。試合から遠ざかっていた。対して国内組は、Jリーグや天皇杯を終えたばかりだった。国内組のなかでも、選手によってコンディションにバラつきがあった。

 今回は違う。アジアカップより格段に良い準備のもとで、ゲームを迎えることができる。勝つための前提条件は満たされているのだ。

 ホームで連勝を飾れば、オーストラリア戦は引き分けで十分だ。6月の3連戦で勝ち点7を稼げば、その後の戦いがグッと楽になる。年内に残された2試合で、大勢を決することも可能になってくるだろう。

 組み合わせは悪くない。スケジュールも理想的だ。あとは勝ち抜くだけ、である。

【プロフィール】
戸塚啓(とつか・けい)
1968年生まれ。サッカー専門誌を経て、フランス・ワールドカップ後の98年秋からフリーに。ワールドカップは4大会連続で取材。日本代表の国際Aマッ チは91年から取材を続けている。2002年より大宮アルディージャ公式ライターとしても活動。最新著書に『不動の絆』〜ベガルタ仙台と手倉森監督の思い(角川書店)。『戸塚啓のトツカ系サッカー』ライブドアより月500円で配信中!

2012.03.29 12:00


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