不屈のクラブを率いる《奇才》ホロウェイ

 最後の一枠は、プレーオフを勝ち抜いたクリスタル・パレスだ。実はこのクラブ、深刻な財政難に陥り、3年前は《瀕死》の状態だった。3000万ポンド(約45億円)もの負債を抱え、移籍金未払いから補強禁止処分を受けていたクリスタル・パレスは、2010年1月に行政管理下に置かれ、そのペナルティーとして勝ち点10ポイントを剥奪された。破産寸前のクラブはギリギリで3部降格を免れたが、主力の大半を売却せざるを得なかった。しかし、そこから4人の裕福なサポーターが設立したコンソーシアムがクラブを買い取り、基盤を建て直して昇格までこぎつけた。荒波を乗り越えてきた、まさに「不屈のクラブ」というわけだ。

 昨シーズンの順位は5位。戦力・資金力ともに降格候補の一番手であることは間違いない。だが、それでも昇格組の中で私が最も楽しみにしているのはクリスタル・パレスだ。その理由は《奇才》イアン・ホロウェイ監督の存在に尽きる。ホロウェイと言えば、「そこらのコメディアンより面白い」と言われるほどユニークで、饒舌で、過激な物言いが人気の名物監督だ。その名言集は本になったほどで、会見場にはいつも笑いが溢れている。だが、10-11シーズンにブラックプールを率いてプレミアリーグに初挑戦した際には、得意のジョークを封印して自らのフットボールで名を売った。ブラックプールは残念ながら1年で降格したが、ホロウェイのチームが見せた壮絶な捨て身の攻撃は観る者を何度も魅了した。「パンチを放たなければボクサーの価値は分からない」と語るホロウェイは、スペイン代表を手本に、ピッチをワイドに使った超攻撃的フットボールを志向する。2部年間最優秀選手に輝いたウィルフレッド・ザハがユナイテッドへと去ったのは大きすぎる痛手だが、それでもホロウェイの哲学と求心力、人間としての魅力には、どこか期待してしまう。勢いに乗ったら止まらない攻撃志向と、財政破綻という死の淵から蘇った執念深さ。この2つがうまく化学反応を起こせば、サプライズチームになるのは彼らかもしれない。



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