ブラジルの長距離バスは設備充実、問題は自分自身か


日本を離れ、早1カ月。出発前は、まさかブラジルを長距離バスで横断することになるとは露程にも思わなかったが、さすが車社会と言ったところだろうか。バスの設備は充実の一言だった。



トイレは言うまでもなく、冷水器も置かれて備え付けのテレビではDVDが放映されている。さらには無線LANも飛んでいることから、インターネットにも接続可能。リクライニングシートこそ180度までは倒れなかったが、そこまでの贅沢は望んでいない。



西部のクイアバから東部のフォルタレーザまで、直線距離だけで約2300キロ。走行距離は4000キロぐらいだろうか。チケット購入時に、窓口のオッチャンから60時間かかると、嘘か真かわからないような行程を聞かされてゾッとしていただけに、設備の充実度は長い旅路を前にいくばくかの光明になっていた。



ところが、である。バスに乗ってからどうも体調が優れない。冷房のききすぎかという考えもよぎったが、違うことはわかっていた。既に頭の中では、前日の昼食がフラッシュバックされていた。町に点在する食堂で食べた大きな肉団子は、フォークで半分にカットすると、中心部が生焼けだった。







我ながら己の食い意地を呪うばかりだ。残そうという思いも浮かんでいた。しかし、日本でいう甘酢がけのような丸々とした3つの肉団子は、いつの間にか跡形もなく胃袋に収まっていた。



たぶん、アレだ。



とは言え、腹痛の原因を見出したところで、既に苦悶の荒波に飲み込まれている以上、後の祭りである。腹の奥底では、赤みのかかった肉団子さん達が暴れまわり、猛烈な便意を生み出している。腹部から臀部へと押し寄せる大きな波を耐え切ると、直後に嘘のような平静が訪れる。しかし、長くない。ようやく手にした平和をぶち壊すかのように、再び肉団子さん達が暴れ出す。



我慢と安堵を何度か繰り返しながら、どうしても耐えられなくなったらトイレに駆け込むという周回運動を繰り返しつつ、時に冷や汗をたらしながらも苦しみをやり過ごしていた。



窓の外を見ると、だだっ広い荒野が永遠に続いている。



終わりの見えない道のように、鎮まることの知らない肉団子さん達。堪え切れず、トイレに何度目かの駆け込みを終える。これで、肉団子さん達は原形をとどめずに出ていってくれただろうと安心していたが、何やらおかしい。さっきまであったはずのものがない。



パスポートはある。財布はある。パソコンもある。



ただ、紙がない。



紙幣は前からなかったが、トイレに備えられていたはずのトイレットペーパーが、ない。ないのである。






【プロフィール】
小谷紘友(おたに・こうすけ)
1987年、千葉県生まれ。学生時代から筆を執り、この1年間は日本代表の密着取材を続けてきた。尊敬する人物は、アルゼンチンのユースホステルで偶然出会ったカメラマンの六川則夫氏。
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