中立の立場でのテレビ観戦も悪くない
ラツィオ時代の3シーズンでトッププレーヤーへと成長。攻守両面で機能する知的かつ精力的なMFだった
▼現場を離れて、つまりチェルシーの監督を解任されてからもうすぐ2年になろうとしている。ピッチが恋しいとは思わない?
ディ・マッテオ(以下D)──どうかな。ピッチとロッカールームの匂いが恋しくないと言ったら嘘になるけど、中立の立場でのテレビ観戦もサッカーの楽しみ方としては悪くないとも思うよ。
▼プロになる前に精肉店で働いていたことがあると聞いたけど、それは本当かな?
D── それには理由があって、スイスの高校では最終学年の時に職場体験の実習があるんだ。将来どんな仕事がしたいか考えて、それを体験する。だから肉屋だけじゃなくパン屋や機械工もやった。肉屋は割と長くやったから、包丁の扱い方も覚えた。どの仕事もそれなりに楽しかったけど、サッカーを上回ることはなかったな。
▼イタリア人の両親の下、スイスで生まれ育ち、イングランドで暮らしている。どこが自分の家だと思う?
D──妻と子供たちがいるところが僕の家だ。スイス、イタリア、イングランド、すべての国の文化の影響を受けてきたけど、自分はヨーロッパ人だと感じているよ。
▼それぞれの国の長所を教えてもらえるかな?
D──スイスの文化の根底には教育がある。学問と道徳、その両方の意味でね。スイス人は国家や国民を尊重する。効率を重視し、時間に正確だ。そういうところは自分の中にもある。つまり、イタリア人らしくない(笑)。イタリアの文化は人生を楽しむことだ。人生に対して楽天的。そして家族を大切にする。これも僕の一部分だ。イギリスの文化が教えてくれたのは、世界に対して広い心を持つこと。イギリスはかつて世界を制していた。イギリス人は旅好きで世界を見て歩くことが好きだ。
▼君がプレーしていた頃、つまり1990年前後のスイスリーグは決してレベルが高くはなかったよね?
D──当時のスイスは、レベルがどうこうより、人気そのものが低かった。でも、今では人気が出てきて、スイス人選手がヨーロッパの主要リーグで活躍するようになっている。スタジアムなどの設備面は2008年のヨーロッパ選手権で整備されたしね。
▼スイス代表ではなくイタリア代表を選んだ理由は?
D──レベル的に、やる気をかき立ててくれるのはイタリア代表だった。スイスで生活をし、スイスリーグでプレーしていたから、スイス国籍を取ることは簡単だった。スイスリーグには外国人枠があって、僕は外国人としてプレーしていたこともあって、スイス国籍を取るよう勧められたことも何度かある。でも、その気にはなれなかった。最初から外国人枠でプレーしていたから、その枠に見合うだけの実力を示すことがモチベーションにもなっていたからね。
▼いずれイタリア代表になることを考えていた?
D──いや、はるか遠くにある夢でしかなかった。いつかはイタリア代表になりたいと思っていたけどね。
▼そして93年に君はラツィオに加入し、イタリアでプレーすることになった。当時のラツィオは上り調子のチームで、君はすぐに主力としてプレーするようになった。イタリアのダービーマッチの中でも最も熱狂的と呼ばれるローマ・ダービーを何度か経験したけど、あの雰囲気はどう?
D──信じられないぐらいにすごいよ。ダービーでプレーするのは楽しかった。ホーム側のファンが6万人、アウェー側のファンが2万人。スタンドは両チームのファンではち切れんばかりで、多くの旗が打ち振られ、大声でチャントが歌われる。ローマ・ダービーでプレーすることは唯一無二の刺激だった。
▼プレッシャーだとは思わなかった?
D──とんでもなくプレッシャーのかかる試合だった。ラツィオとローマに加入する選手は、入団会見でダービーマッチへの意気込みを聞かれる。ローマの空港に降り立った時点で、ファンから「ダービーで勝ってくれ!」と懇願されるぐらいさ。ダービーに勝てば他のことは何だっていい。大げさじゃなくそうなんだ。もっとも、最近では熱気が下がっているみたいでね。先日、ローマ・ダービーで空席があるのを見て本当に驚いたよ。
▼自分が出場したローマ・ダービーの結果を覚えている。
D──もちろん。6試合に出場して3勝2分け1敗だ。
▼ラツィオでの在籍期間はわずか3シーズン。ズデネク・ゼマン監督との確執によりチームを去ったという話は本当?
D──メディアにはそんな話が出たけど、実際は違うよ。ゼマンと僕はすごく良い関係を築いていた。考え方に違いがあれば話し合った。彼は僕の話を聞いてくれたし、彼が監督として結論を出せば、僕はそれが何であれ尊重した。ラツィオで素晴らしい3シーズンを過ごして、サッカー選手としても個人としても、新しい挑戦がしたくなったんだ。監督のせいじゃない。それにラツィオもハッピーだった。チェルシーからかなりの移籍金を得たはずだからね。
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