変わるモウリーニョ

では、今回のチャレンジはどうなのか。チェルシーで再びプレミアリーグを制し、3つ目のクラブでのチャンピオンズリーグ制覇を果たした時は、新たな挑戦を探してロンドンを離れるのではないか。

彼の興味は代表チームに向かうかもしれない。クラブレベルではありとあらゆるタイトルを勝ち取ったが、こちらは全くの手つかずだ。モウリーニョは少なくとも一度はイングランド代表監督のオファーを受けている。あるいは、母国であるポルトガルを率いたほうが、国際舞台でのタイトルには近いかもしれない。

ブンデスリーガで再びグアルディオラと雌雄を決するのも面白そうだし、故郷のクラブ、ヴィトリア・セトゥバルでの全く新しい挑戦に心惹かれるかもしれない。はたまた、女子のチームを率いて史上初の男子と女子のチャンピオンズリーグ制覇を狙い、女子サッカーを認知させることに興味を持つかもしれない。モウリーニョは望んだことを何でも実現させてしまう男だ。そして、挑戦が簡単になり、面白味が薄れたら、次へと旅立つ。昨シーズンは無冠に終わっただけに、今は腰を据えていられるが、ずっとそうであるはずがない。今後、彼はその探求心を抑え込んでおけるのだろうか?

「サッカーより大切なことが一つだけある。家族だ」。モウリーニョは難しい顔つきで言った。「いつか子供たちも難しい年頃になる。家族が引っ越しにうんざりして、安定を求める日も来るだろう。その時は、私はそれに応じた職場選びをするよ」

「ポルトガルからイングランド、イングランドからイタリア、イタリアからスペイン、そして再びイングランドへ……」。彼の指先が頭上を行ったり来たりする。「私は家族を仕事の都合で連れ回している。もちろん家族にとっても素晴らしい経験になっている。新居、新しい学校、新しい人付き合い、新しいクラブ。ゼロからスタートする素敵な経験だ。しかし、いつかは安定を求める日が来るし、その日はもう来ているのかもしれない」

これこそが、モウリーニョがチェルシーで長期政権を築きたいと願う理由のように思われた。ただ、それもマインドゲームの一種かもしれない。そこまでではないとしても、謙遜しているのではないか。長い監督キャリアの中で、彼は様々なモウリーニョを作り上げてきた。サッカー界において、彼ほど多彩かつ複雑な個性を持つ者はいない。一皮剥いてその素顔に近づけば、新たなモウリーニョが顔を出す。何が嘘で何が真実なのか、それを見極めるのは不可能だ。だとしたら、これがモウリーニョの正体なのかもしれない。自分のイメージを操る達人。モウリーニョは、時と場合に応じてどんなモウリーニョにでも姿を変えることができるのだ。

モウリーニョは常に挑戦者であったが、王座防衛にはこだわらなかった。新たな国に果敢に攻め込んだが、勝利した時は支配ではなく別の国の征服へと目を向けた。ところが今のモウリーニョは、「家族の安定を求める男」であり、「好きなチームに腰を落ち着け、さらに腕を磨く男」であることを望んでいる。ベストを尽くして働き、幸せな生活を求める普通の男──。そんな新しい一面を見いだすために、チェルシーに戻って来たのではないだろうか。

昨シーズンはすべてのタイトルで善戦しながらも、結局は無冠で終わっている。常勝監督としては信じられない失意のシーズンだったはずだが、モウリーニョは内心で微笑んでいるのかもしれない。勝手知ったるチームとリーグに戻り、簡単にタイトルが手に入ったのではモチベーションをどう保つか困ってしまう……と。

モウリーニョは、獲得したタイトルや自分の采配、もしくは築き上げたチームといった実績で記憶に残ることを望んでいない。人の記憶に残らなくてもいいとさえ考えている。だが、もし可能ならば、こんな男でいたいと言う。

「私は、家族や自分のクラブのファンに、ベストを尽くした男として覚えられたい。大きな成功を手にする時も、そうでない時もある。それでも私は可能な限り最善を尽くしてきた。意見は人それぞれあるだろう。意見は好きなように作れる。だが、事実は操作できない。だから私は人の意見は気にしない。そして事実は操作されることがないので、事実も気にしない」

チェルシー復帰後のモウリーニョは、これまでのモウリーニョとは違うようだ。使う者さえ時には傷つけるナイフのような鋭さは、今はあまり感じられない。だが、それは失ったのではなく、彼自身が望んで変わろうとしているのだ。彼は自分が周囲からどう思われるべきか、明確な答えを持っているし、それを具現化する能力も持ち合せている。だから人の意見に全く動じない。彼は「何の達人でもない」のかもしれないが、間違いなくすべてをコントロールする支配者なのだ。


Jose MOURINHO
ジョゼ・モウリーニョ
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1963年1月26日生まれ。
徹底して勝利を目指す確実かつ緻密な戦術と、歯に衣着せぬ発言で注目を集める指揮官。
チェルシーの監督に復帰した昨夏はキャリア初の無冠に終わったが、その評価は落ちていない。


インタビュー=ローリー・スミス Interview by Rory SMITH
写真=ベン・ダフィー、ゲッティ イメージズ
Photo by Ben DUFFY, Getty Images

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