マインドゲームの達人

審判の判定についても、FFPに関しても、マスコミを通じて主導権を握り、ライバルに圧力をかける。これがモウリーニョのやり方だ。マインドゲームの定義に議論の余地はあるが、サッカー界でこの分野の第一人者と見なされたのはアレックス・ファーガソンだった。彼のマインドゲームは1996年、ぽろりと漏らしたコメントから始まった。「リーズは、ニューカッスル戦ではユナイテッド戦ほど必死にプレーしない」

冷静に振り返ってみれば、当たり前のコメントである。伝統的にリーズは、ニューカッスルよりもユナイテッドをライバルと見なしてきた。ファーガソンが感情的に発したコメントは、優勝争いを演じていたニューカッスルに対しあまりに簡単に敗れたリーズに対する愚痴に過ぎなかった。しかし、周囲はそれを洗練されたマインドゲームと受け取ったのだ。

結局それは、コメントを発したファーガソンの意図ではなく、敵将のケヴィン・キーガンの激高によって、マインドゲームであることが確定する。それ以降、ファーガソンはマインドゲームの達人と呼ばれるようになった。彼のコメントは大物政治家の発言や教祖のお告げのように一目置かれ、何を口にするにしても常に隠された意図があると考えられるようになった。

モウリーニョもファーガソンと同類だ。ただ、マインドゲームも飛躍的に進歩した。当初はキーガンやティム・フラワーズを逆上させる小さなトゲの付いた発言に過ぎなかった。言い換えれば32ビットのゲーム機である。それが今では高解像度のデジタル映像に最新の音響、そしてマルチプレイ対応になった。

今や、「選手を補強しない」という発言はマインドゲームであり、「選手を補強する」というコメントも同様である。UEFAとユニセフの陰謀によりチャンピオンズリーグ決勝進出を阻まれたという発言も、当然マインドゲームになる。それから、トッテナムやシティは選手補強に大金を費やしたのだから、プレミアリーグ制覇を義務付けられていると主張することも。 そんなマインドゲームの手法をモウリーニョの口から説明してもらいたかった。「あなたは意図的に爆弾を投げ込んでいるのですよね?」

だが、彼は問題の存在自体を認めなかった。自分は思ったことを口にしているだけで、どう解釈するかは人それぞれだというのだ。「私が意図的に行うことといえば、偽善者ぶらず、正直に話すことだ。私は、偽善者のふりはしないし、道徳的に正しいコメントをするわけでもない。マインドゲームにも参加しない。思ったことを言うだけだ。それをマインドゲームだと分析したいなら、勝手にすればいい」

だが、FFPにせよ補強にせよ、自らのコメントで相手にプレッシャーをかけ、心理的に優位に立とうとしているのは明らかだ。そして現役の監督で、モウリーニョほどこの分野に長けた者はいない。しかし、モウリーニョは当惑してみせた。

「自分自身の発言に別段の影響力はないと思う。別にメリットでもデメリットでもない、といったところかな。試合前日と試合後には必ず会見があり、そこでマインドゲームを仕掛けることは可能だ。だが、私は正直に思うままを言うだけだよ。そのコメントがどんな受け止め方をされても、それは意図的にやっているわけではない。ただ言うべきことを言う。それだけなんだ」

どう釈明しようと、モウリーニョがモウリーニョである以上、マインドゲームと思われても仕方のないことかもしれない。モウリーニョは、ちょうどファーガソンがそうだったように、一語一句、一挙手一投足が裏の意味に解釈される存在になったのだから。そう、彼の口から発せられる限り、「マインドゲームには参加しない」という言葉もまたマインドゲームとして受け止められる。モウリーニョは常に何かを企て、計算し、準備し、出し抜こうとしている。誰もがそんなイメージを彼に抱いている。

「切り離してもらいたいね」と彼は言う。「マインドゲームは別にして、私は常にサッカーのことを考えているわけじゃない。片方は仕事で、もう片方はプライベートだ。私は仕事とプライベートでは全く別の人間であるよう心がけている。昔からそうだが、人との付き合いも同様だ。家族や友人はもちろん、サッカー界でも親密な関係を築けた人たちには、本当の自分を知ってもらいたい。仕事中はサッカーに没頭する。だからこそ、普段の顔は違っていたいと思う」

そんなことが可能なのだろうか? サッカー監督に限らない。どんな仕事でも、責任ある役割を任せられれば、プライベートは侵され、それを守るのは並大抵の苦労ではない。「時には切り離せないこともあるが、よほどのことがない限り、私は仕事を家に持ち帰らない。実際の業務だけでなく、仕事のことを考える頭をオフィスに置いて帰宅するようにしている。家に帰ってから、明日の練習メニューを考えたり、次の対戦相手のビデオを見たりはしない。すべてを済ませてから帰宅するんだ。妻や子供が私に求めるのはモウリーニョ監督ではなく、ただの父親、ただの夫としてのジョゼだ。私はそれに応えたい」

戻る

インタビューTOP
~SOCCER KING + TOP