記者会見場のクソ監督
本人は変わったと思いたいようでも、現実は少し違うのかもしれない。昨シーズンは、わずかながら「昔のジョゼ」が顔を出した瞬間があった。マンチェスター・ユナイテッドとの試合前に、試合が終わったらウェイン・ルーニーにオファーを出すと宣言したことがあった。これはユナイテッドのエースの動揺を誘う策略だったのだろう。
グアルディオラ率いるバイエルンに、UEFAスーパーカップで敗れた試合後、ラミレスへのイエローカード2枚の判定に納得がいかなかったモウリーニョは、いつものようにUEFAによる「モウリーニョに対する陰謀論」を主張した。
この陰謀論は、ファンであれば誰もが暗唱できるほど何度も唱えられてきた。サッカー界は、バルセロナが、そしてグアルディオラが、モウリーニョを倒すことを望んでいるという説だ。
この陰謀論が最も注目を集めたのは、レアル・マドリーとバルセロナがリーグ戦、コパ・デル・レイ、チャンピオンズリーグでクラシコ連戦を繰り広げた11年4月のことだった。モウリーニョは審判が偏見を持っていると主張。バルセロナに手を貸したとされる審判の名前を羅列した。「なぜだ? なぜエヴレベは? なぜブサッカは? なぜデ・ブリーケルは? なぜシュタルクは? なぜなんだ?」
普段は控えめなグアルディオラも、この時ばかりは反論した。モウリーニョのことを「記者会見場のクソ監督」と言い放ったのだ。ただ、これもまたモウリーニョの作戦勝ちと評価された。敵将を、勝てもしない、勝ちたくもない論戦の場に引きずり出したのだと。
とはいえ、モウリーニョがこの自説を唱えた途方もない回数を考えれば、これは彼が計算ずくで仕掛けた策略などではなく、本当に自説を信じているだけのようにも思えてくる。いずれにしても、グアルディオラは挑発されまいと耐え、何度かは成功し、何度かは失敗した。
そう考えると、「自分は変わった」というモウリーニョの自己評価はやはり間違っているのかもしれない。彼は今もなお自分の中に野性を抱えている。それは、自分でも手に負えないモウリーニョが、彼の中にいるということだろう。
ファイナンシャル・フェアプレー(FFP)に対する見解が良い例だ。「ここ数年、チェルシーはうまくやっている。若い選手に投資しているからね。一流の選手になる者もいれば、ならない者もいる。しかしそれは当たり前のことで、それこそサッカーの難しさだ。とにかくチェルシーはFFPが本当の意味で導入されると考え、その対応に取り組んでいる」
どうやらFFPはお気に入りの話題らしい。昨シーズン途中、モウリーニョはマンチェスター・シティの資金力にモノを言わせた補強方針を批判した。シティの経営陣は、モウリーニョの一方的かつ偽善的な意見に愕然としたはずだ。それもそのはず、チェルシーこそがその本家であり、アブラモヴィッチとタッグを組んで世界中から選手を買いまくったのは他ならぬモウリーニョ自身ではないか。
だが、モウリーニョに言わせれば、成り上がりの象徴と見なされてきたチェルシーは、サッカー界が新たに取り組もうとしている経済ルールをしっかりと認識し、正しい手法で戦いを挑む勇敢なチャレンジャーであり、他のチームもそれにならうべき、なのだ。
イングランドサッカー界の誰もが、次のようなモウリーニョ節に慣れていくしかない。「FFPは奇抜なアイデアだが、チェルシーはこれが単なる警告やブラフと受け止らず、本当に導入されるものだと考え、その準備を着実に進めてきた。余剰戦力はローン移籍させ、若い選手たちを育てようとしている。ベテラン選手でチームの安定性を保ちつつ、将来性のある若い選手をチームの軸に据えようとしている。素晴らしいやり方だよ」
自分の言っていることに一貫性がないと指摘されたら、モウリーニョはどう反応するだろうか。「でも、チェルシーこそがFFPの理念にそぐわない方法論をずっと取ってきたチームですよね」。こんな質問をぶつけてみたが、モウリーニョは全くひるまなかった。そう、全く。
「アブラモヴィッチ政権の最初の頃、我々は大金を投じて選手を補強する必要があった。だからそうしたし、オーナーも莫大な投資をした。すると周囲の人は、あれだけ補強すれば勝って当然だ、と言い始めた。それもいいだろう。我々は他のクラブよりも大金を費やしていたのだからね。だが、他のクラブも大金を使えるようになった今、1億ポンドを使ったトッテナムに対して、『優勝すべきだ』という人がいるかい? シティやパリ・サンジェルマンはいつになったらチャンピオンズリーグで優勝するんだ? 誰も言わない。言われるのは私、そしてチェルシーだけだ。何かおかしいとは思わないか?」
モウリーニョの中には彼自身にもコントロールできない一面がある。それは決して平穏を受け入れない。しかしそれは、モウリーニョという稀代のサッカー監督を作り上げる過程において絶対に欠かせない一面なのだ。
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