スペシャルからハッピーへ
今回のインタビューでも同じ質問をしてみた。「あなたは今でもハッピー・ワンですか?」。モウリーニョは「そうだ」とうなずく。ただ、そうは見えなかった。
我々取材陣が監督室にいた1時間と少しの間、彼が「ハッピー」な口調になった質問はわずかに1つだけ。シャーロック・ホームズ派か、ジェイムズ・ボンド派かという質問だ。モウリーニョは、どちらかを選ぼうとはしなかった。躍動するユーモアに溢れたスパイも、謎を解く天才探偵も、彼にとっては同じように魅力的なのだ。彼の性格を考えれば納得できる。
他の質問についても、彼の態度は「ハッピー」には見えなかった。彼を6年ぶりにロンドンに引き戻したチェルシーとの絆について質問した時であっても。
「いつかイングランドに戻るとは思っていた。チェルシーにかって? そう願っていたが、どうなるかは分からなかった。住みたい国、働きたい国、愛するクラブ、それらがすべて満たされれば最高だが、監督業が仕事である以上は、どうなるか分からない。何が起きても対応できるように準備しておかなければ。そもそも、チャンスが来るかどうかさえ確約されてはいないんだ。ちょうど私がイングランドに戻りたいと考えた時に、チェルシーの監督の座が空いていた。そのおかげで、私は行きたいリーグの、そして最も行きたいクラブに来ることができた。素敵な偶然だったが、それはやはり偶然なんだ」
「素敵な偶然」とは言うものの、無邪気に喜んだり、ロマンにひたる様子は見られない。こちらは少なからず、モウリーニョとチェルシーはお互いを思い合い、お互いの腕の中でしか幸せを見つけられない愛で結ばれた恋人同士、などという甘いストーリーを思い描いていたのだが、モウリーニョからそんなパスは出てこない。
「私の故郷はいつだってポルトガルだよ。しかし、これまで家族で経験してきたことと現状を踏まえ、今はロンドンが子供たちにとって一番良いと感じた。この街の人々はサッカーという仕事を理解し、自由に過ごさせてくれる。街を散歩していたり、買い物や食事をしている時、私は監督ではなく父親であり、どこにでもいる普通の男なんだ。ここでは、大半の人がそれを理解してくれる。ちゃんとプライベートを与えてくれるんだよ」
イタリアやスペインではそうはいかないのだろうか。こう切り返すと、モウリーニョは目をむいた。「サッカー文化によるものだろう。イタリア人やスペイン人は頭を切り替えることができない。私のことを24時間、チームの監督だと思っている。父親や夫として過ごす時間があるということに意識が回らないんだ。そんな環境に何年も置かれれば、私も家族もつらくなる」
イングランドは違う? 散歩中にサインをねだられたり、選手起用や補強について質問されたりしない?
「全然違うね。先日、息子のサッカーの練習を見に行ったが、周囲の人は私を一人の父親として扱ってくれた。私は息子がサッカーをする姿をゆっくりと眺めながら、他の父兄と自然な会話を楽しむことができた。誰にも邪魔されることなくね」
イングランドに戻って来たのは家族のためなのだろうか。その答えは半々といったところ。「ここには子供にとって素晴らしい教育環境がある。私だけでなく妻もロンドンを気に入っている。一方、監督としての私はイングランドで、そして可能であればチェルシーで仕事がしたかった。だから完璧な答えが出せたと思っている」
プレミアリーグに戻った彼は、内なる平穏を手に入れた。荒れ狂う外洋から、港へとたどり着いた感覚だろうか。「6年という歳月は、人生の中でも長い時間だが、監督キャリアからするとさらに長い時間なんだ。一生に近いくらいにね。だから私も変わった。誰だって変わるよ。すべての面で全く異なる国で6年も過ごしたんだ。イングランドからイタリアへ、イタリアからスペインへ。普段の生活からサッカー文化の些細な部分まで、何もかも違う国を渡り歩いた。そこでは変わらなければ生きていけない。そして、私は自分が良い意味で変わったと信じている」
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