人心掌握の達人

フットボールの教科書によると、監督には3つのタイプがいるらしい。まずは、アレックス・ファーガソンのような人心掌握術に長けたモチベーター。生まれながらに周囲を鼓舞できる者だ。「よくやった」と褒められることよりうれしいことはない。ファーガソンはハーバード大学のビジネススクールで「フットボールの世界における史上最高の発見は、この『Well done』(よくやった)だ」と話している。

2番目のタイプは、ペップ・グアルディオラのようにトレーニング場をマイホームにする監督だ。彼らは練習場で選手たちと過ごすことを何よりも愛し、雨の日も晴れの日も、毎日チームのレベルアップを図ることに喜びを見いだす。

そして3番目は戦術家。サッカーをチェスに例えるラファエル・ベニテスやルイ・ファン・ハールがその典型だが、監督が考えに考え抜くことで戦力差を埋め、ひっくり返すことができると主張する者である。

ではモウリーニョは? 彼はそういったカテゴリーに押し込められることを嫌がった。「一流の監督になるためには、すべての要素を少しずつ取り入れる必要がある。偉大なモチベーターでも、サッカーを理解していなければ一流ではない。偉大な戦術家も選手に共感されなければ何もできない。いくら選手を上達させる明確な方法論を持っていても、試合で勝たせられなければ意味がない」

モウリーニョの言葉が熱を帯び始める。「豊富な知識と経験を持つアシスタントを何人置いたって、彼らを完全にコントロールできなければマイナスにしかならない。一流の監督は、少しずつでもいいからすべてを兼ね備えているし、そうであろうと努力するものだ。選手についても同じことが言える。空中戦に弱かったり、逆足が使えなかったり……。そんな選手は世界最高レベルには到達できない。監督も選手も、ある分野で秀でていることが大切だが、それと同時にすべてを兼ね備えている必要もある。そして、選手がそうであるように、監督にも才能が必要だ。天性の才能がね。まあ、私は自分の才能が何なのか知りたいとも思わないが」

モウリーニョが持つ「天性の才能」については、彼のチームでプレーしてきた選手たちの証言を聞くのが手っ取り早い。ドログバはこう振り返る。「周囲の人たちによく言われたものさ。『君は監督から本当の子供のように愛されている』とね。俺自身もそう思うよ。でも、良いプレーをしなければ、試合に出してはもらえない。それがジョゼなんだ。人として気に入られても、チームにとって有用でなければ使われない。常に最高のパフォーマンスが求められる。これは仕事だからね」

愛する、そして厳しく接する。いわゆる「アメとムチ」だが、それ以外に彼ならではの方法論があるはずだ。ドログバが教えてくれた。「ジョゼは選手の自信を深める方法をたくさん知っているよ。例えば僕が2得点したとする。だが試合後のジョゼは、センターバックの肩を抱いて『今日は君のおかげで勝てた』と言う。2得点すれば素晴らしいことだけど、その影で誰かが失点しないように体を張っている。ジョゼはちゃんとそこを見ているし、そのことを僕にも理解させるんだ」

もう一人のモウリーニョ信者、チェコ代表のGKペトル・チェフは、相手によって接し方を変える適切な方法を知っていることがモウリーニョの特色だと説明する。「ジョゼは、人はみんな違うんだということを理解している。彼は選手全員と個々に話す。だからこそ、出場試合が10試合だろうが40試合だろうが、みんなチームの一員だと感じられるんだ」

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