モウリーニョの聖域
最新設備が揃うチェルシーのコバム練習場。その監督室の中央に置いた椅子にジョゼ・モウリーニョが座っている。昨年に彼が監督に復帰したことで、この部屋は再びモウリーニョの色に染まった。
壁には数々の栄光を物語る写真が飾られている。ポルトでビッグイヤーを掲げた瞬間、楽しげな子供たちとの一枚、さらにインテルで就任2年目に3冠を達成した時の写真も飾られている。デスクの隅には自身の自叙伝が山積みになっている。イタリア語、ポルトガル語、そして日本語版も。ガラス製のテーブルの下には、「ガゼッタ・デロ・スポルト」紙が並ぶ。3冠を達成したシーズンの、それぞれリーグ、カップ、そしてチャンピオンズリーグで優勝した翌日の一面がディスプレイされている。
インタビューが始まってすぐ、我々はモウリーニョの用心深さを感じた。取材依頼には快く応じてくれたが、そう簡単に本音は明かさないという意識が言動の節々に感じられる。ロンドンへの愛着、シーズンへの意気込みといった話題については、語りたくないような気配さえ見せた。
ドアがノックされ、モウリーニョは言いかけていた言葉の代わりに「どうぞ」と声を出す。すると、チェルシーのユースチームの選手が不安そうにドアを開けた。
「ジョゼ、少しお時間いいですか?」
モウリーニョは都合が悪いことを示唆するように少しだけ首を傾け、優しい笑みを浮かべると「後で時間を取ろう」と応えた。うなずきながら後ずさりする少年の顔には、監督の機嫌を損ねなかったという安堵の表情が広がった。ゆっくりとドアが閉まるにつれ、モウリーニョの顔から笑みが消えて行く。再び腕を組み、本題に戻る。
この5秒間のやり取りが、監督としてのモウリーニョを物語っていた。選手が彼に対して抱く畏怖と敬意、そして指揮官としてのオーラがはっきりと見て取れた。
このモウリーニョの部屋には、訪れた者の気を引き締め、少し怯えさせるような神聖な空気がある。不満を抱く選手には、監督はすべてを悟っているのだと思わせるだろう。そして代理人ならば、選手の年俸アップを切り出すのに躊躇するだろう。ここはそんな聖域なのだ。
それと同時に、この部屋はモウリーニョの違う側面もうかがわせる。思いやり、優しさ、気遣いなど。彼は誰にでも耳を傾ける。まだ駆け出しの選手に対してもだ。彼は「ボス」でも「親分」でも、「監督」でさえない。彼はジョゼなのだ。マイケル・エッシェンやディディエ・ドログバが照れることなく「お父さん」と呼ぶ男であり、ウェスレイ・スナイデルやシャビ・アロンソ、ジョン・テリーといった世界的な選手たちが永遠の忠誠を誓う男なのだ。
畏怖と愛情の調合こそがモウリーニョの成功のカギだと解釈する者にとって、この一連のやり取りは、自説を裏付ける決定打に見える。彼は恐怖と愛情をコントロールし、絶妙なバランスで配合する。そうすることで彼は、チャンピオンズリーグを2度、そしてポルトガル、イングランド、イタリア、スペインで国内リーグを制し、サッカー界における最高の監督の一人に、そして史上最高の一人となった。
そんな私の見解を、腕を組んで黙って聞いていたモウリーニョは、目線を下に落としたまま首を横に振り、こう言ったのである。「私は何の達人でもないよ」
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